小代焼中平窯 ~熊本の窯元~

瀬上窯

瀬上林右衛門

江戸後期には、それまで一子相伝の小規模生産であった小代焼に大きな変化が訪れます。

南関手永御山支配役・瀬上林右衛門の参入です。

当時は他国の陶磁器に押され、肥後国産品の充実が不十分でした。
そのため小代焼の増産が計画されたのです。


1836年に瀬上林右衛門が窯元(とはいっても制作は行わず、最高経営者のような立ち位置)となり、瓶焼窯から300mほどの場所に瀬上窯を築窯します。

瀬上窯は全長約25・3m 幅約3・1mの大規模なものです。


また、この時期から本格的な卸売りを開始し、一般にも小代焼が出回るようになります。

1849年の『焼物店々への引渡申候目録控』によれば5軒の販売店に相当の数量を卸しており、町方への需要拡大は成功したと思われます。
古小代の里
瀬上窯跡 胴木間の側面

五徳焼 ~販路拡大のための宣伝文~

小代焼の別称として「五徳焼」が用いられたのは江戸後期のことであると考えられます。


1834年の『肥後国小代五徳焼物効能由来』

「・毒を消す・茶をよく保つ・酒をよく保つ・生臭さが移らない・使い込んでも火に入れれば新品同然という五つの効能がある。

小代焼の陶祖が朝鮮で五徳焼を披露していたところ加藤清正に賞せられて来日。

肥後小代の麓で一子相伝で御用焼物を勤めて今に至る。」

という内容の、五徳焼(小代焼)の宣伝文でした。


上記の内容は歴史的事実というわけではなく、幕末の清正人気にあやかったキャッチコピーのようなものです。

この文書には牝小路・葛城の名前が登場しないため、五徳焼という新名称を広める目的の 瀬上窯の宣伝文であると思われます。

さらに
「これからは民間への売物を焼くことになった。好みや注文に合わせて入念に焼成しましょう。」
と注文を募っており、瀬上林右衛門らが販路拡大を図っていたことがうかがえます。


一方で牝小路又左衛門と葛城安左衛門による
『小代焼由緒并効能御尋ねニ付申上候』という文書があり、その中で小代焼には三つの効能があると述べています。

この『小代焼由緒并効能御尋ねニ付申上候』をもとに、五つの効能があるとする五徳焼の宣伝文が作られた可能性もあります。
瀬上窯跡 最後部の部屋
瀬上窯跡 排気口

陶土について

瀬上窯跡のすぐ隣には水簸場(陶土を水で漉し、精製する場所)も残っており、小代焼が大量生産されていた様子が分かります。

1879年~1883年(明治12年~16年)の採掘記録によると、1880年(明治13年)が最も陶土採掘量が多いようです。

この期間内で最盛期の採掘量は60t以上で、大規模な生産が行われていたことが伺えます。
しかし翌年は36t程に減っており、1883年(明治16年)には9tの採掘量となりました。

ちなみに幕末に瀬上窯から分かれた野田窯でも、1880年(明治13年)には60t以上の陶土が採掘されていますが、1883年(明治16年)には2t以下にまで減少しています。

上記のことからかなり短い期間に生産量の激しい増減があったことが分かります。
水簸槽 説明文
瀬上窯跡となりの水簸槽

小代焼 消費地の実態

小代焼は一部の例外を除き、肥後藩内で消費されていました。

それまで一子相伝の小規模生産でしたが1836年に瀬上窯が開始され、本格的に卸売りが始まったことにより民間への需要拡大は成功したように思われます。


しかし、「他産地の陶磁器と消費量を比較する」という視点を持つと別の側面も見えてきます。


実は肥後藩内の消費地において、肥後産陶磁器より他藩産陶磁器(主に肥前系)の占める割合の方が大きいのです。
さらに、小代焼以外の肥後産陶磁器(主に網田焼と松尾焼)の占める割合も大きいため、全体の中で比較すると小代焼の占める割合はかなり限定的となります。

肥後産陶磁器や小代焼の出土比率(18世紀末~19世紀後葉)は以下の通りです。



【本丸御殿】
全体中の肥後産陶磁器の割合
・16.3%
肥後産陶磁器中の小代焼の割合
・6.6%
※小代焼か他産地か断定できないものまで含めると17.5%


【古町遺跡】
全体中の肥後産陶磁器の割合
・13.9%
肥後産陶磁器中の小代焼の割合
・7.5%
※小代焼か他産地か断定できないものまで含めると35%



なお、上記の出土品には瀬上窯以外の製品が含まれる可能性もありますが、小代焼が本格的に卸売りを開始したのは瀬上窯以降であるためこのページに記載しています。


参考資料
・佐賀県立九州陶磁文化館『熊本地震復興祈念 特別企画展 熊本のやきもの』2017年
復興が進む熊本城 2020年

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